──────────────────────── 2003年11月25日 第7号 ┌──────┐┌┐ │ ┌──┐ │└┘ ミ シ ン の 『 そうだったのか! 』 └┬┘ │ │ 〜 ミシンの嘘・ホント、それって常識?! ─────┴─┴──────────────────────────── ◎本メルマガは等幅フォントが最適です ▼ 目次 ●ごあいさつ ●JUKIの自動糸調子開発秘話【2】 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ■ごあいさつ ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ こんにちは。 そして今回からお読みいただいているみなさん、はじめまして。 このところ友人の寿貧乏にあえいでいる 島田ミシン商会の嶋田栄司です。 数あるメルマガの中から選んでいただき、ありがとうございます。 このメールマガジンは、 これからミシンを購入したい、 ミシンのことをもっと知りたい、 もっと上手に使いこなしたい… そんなホームユーザーのあなたが、誤った知識で後悔しないように、 ミシンの嘘・ホントの解明を通して、ミシンの常識や活用のヒントをお伝 えしていきます。 このメールマガジンが何かの役に立って、今まで以上にホームソーイング を楽しんでいただけたら最高です。 気に入っていただけましたら、お知り合いに転送してすすめてくださいね。 ▼バックナンバーはこちら http://www.shimada-mishin.com/mailmag/backnum.html ──────────────────────────────────── ■ 本編記事を読む前に ──────────────────────────────────── 今ではすっかりポピュラーな機能となった「自動糸調子」。 その開発経緯を要約したものを、JUKI(株)さんのご厚意で、前号より掲載 させていただいています。 ▼前編の内容はこちら http://www.shimada-mishin.com/mailmag/backnum/20031111.html 前号では読む前に、中島みゆきさんのヒット曲「地上の星」をご用意いただ きました。今回も必需品です。 持っていない人は思い出しながら… でも、本編の内容がわからなくなった方がいけないので、オープニングにだ け活用してくださいね(笑) 前置きはこれぐらいにして、さっそく続きをどうぞ。 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ■ JUKIの自動糸調子開発秘話【2】 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 新たな機構で成功したかに見えた自動糸調子だったが、 1種類だけ、どうしても切れてしまう糸があった。 問題児の正体は、ジーンズのステッチに使う太い糸だった。 この糸は従来の糸調子でも切れる。 「今までのものでもダメなのだから、評価対象から外そう」 開発部からの提案だった。 これに、企画部の担当者は噛みついた。 「"自動糸調子"と名付けるぐらいだ。全ての糸をカバーすべきだ!」 「早く商品化しないと、どんどん売上が落ちてしまう」 「不完全な物を出すわけにはいかない!!」 激しい議論の末、企画部担当者の「正論」が通った。 たった1種類の糸のために、改めて条件を模索することになった。 新機構の検証が進む中、まだ避けては通れない壁が立ちはだかっていた。 コストの問題だ。 モーターを使って糸を繰り出す方法は、あらかじめ設定していた目標の 倍のコストがかかっていた。 通常、天秤と呼ばれる部品が上下することで、上糸を繰り出している。 新機構でも、モーターの代わりに、上糸の繰り出しに天秤が使えないか? そこで天秤が理論的に上糸を1針繰り出す時期まで、ソレノイド(電流を通 すと磁石の働きをする部品)で糸を保持する方法を試した。 結果は、糸の伸びと縫い速度でバラツキ、安定させることができなかった。 次に、上糸の繰り出し量を測り、適量になったらソレノイドで糸の動きを 止める方法を試した。糸の経路にエンコーダー(回転角度に応じて信号を送 る装置)を置き、糸を巻き付けた。 糸の動きが速すぎて、エンコーダーの反応が間に合わなかった。 押えの高さを検出する布厚センサーも問題を残していた。 布が無いところを縫う模様では、押え金の高さを正しく読めず、繰り出し量 が足りなくなってしまった。 ボタンホール縫いをはじめ、縫い目パターンに応じて補正値を決める検証を 続けた。繰り出し専用の天秤を別に設け、糸経路に工夫を重ねた。 そしてついに、布厚センサーとエンコーダーからの情報をコンピューターで 演算処理し、理想の上糸量を複数のソレノイドで制御することで、全ての糸 で「自動糸調子」を実現した。 模様縫いに加え自動糸調子を装備することで、どんどん増えていたコストも、 縫い目パターンを実用縫いに特化し、海外製の部品を調達するなどの努力の 結果、他社の最高機種が20万を超える中、20万を切る価格で 「ザ・ミシン HZL-7000」が発売された。 シンガーのコンピューターミシン発売から9年、 基礎研究スタートから4年が経過した1985年のことだった。 一つの模様の中で縫い方が変わるボタンホールなどで、その縫いに応じた糸 調子にできることが、他メーカーとの差別化につながった。模様の数など 「派手」な仕様ではなく、使い勝手という「地味」な仕様は、縫ってみて初 めて実感できるものだった。 発売当初は、爆発的なヒットにならなかった。 当時、販売代理店ルートでは、低価格のミシンを他メーカーから仕入れ、 OEM(※)で販売していた。そこに、20万弱の価格帯にコンピューター制御 の自動糸調子がついた自社製品が投入されたことで、多くの販売店も興味を 持った。 ※)OEM :相手先商標製品製造 Original Equipment Manufacturing の略。製造形態の一種で、完成品、半完成品を相手先ブランドで生 産する方式。当時のJUKIは、他社で製造した家庭用ミシンを、自社 製品として販売していた。 販売部は自動糸調子の原理図を持参し、販売店に説明して廻った。 販売店の中には、工業用ミシンを扱う、いわばプロのための販売店もあった。 原理を説明すると、 「これは本当にコンピューターを使った自動糸調子だ!」 と、誰もが認めた。 「ぜひ販売させて欲しい!!」 家庭用ミシンを販売代理店ルートで売る中で、初めて聞く言葉だった。 それまで最下位だった販売代理店ルートが、HZL-7000の登場で、大きくシェ アを伸ばす結果となった。 その後86年8月に、模様の数を大幅に増やし、ひらがなやアルファベットの 文字が縫えるHZL-7700へ、88年2月には、送り歯を前後だけでなく、左右に も動かして大型の模様が縫えるHZL-8800へと発展していった。 自動糸調子は、模様縫いでも威力を発揮した。 「直線とジグザグ部分は通常の糸調子で」 「縫い目が詰まっている部分はボタンホールの糸調子で」と、 ひとつの模様の中で縫い方が変わる部分も、その縫い方に応じた糸調子に調 整できた。普通の糸調子しか持たないミシンでは、ひとつの模様の中で、き れいな部分とそうでない部分ができていた。 模様縫いの数で勝てないから始めた自動糸調子の開発だったが、JUKIの技術 の高さを証明する格好の材料となった。 海外メーカーからOEM供給の要請が来るようにもなり、それまで「訪問販売 のミシン=販売力で売るミシン」という評価だったJUKIの家庭用ミシンが、 HZL-7000の成功で、他メーカーからライバル視されるようになった。 現在も上糸自動糸通しや下糸自動供給を搭載したHZL-010(直販ルートのみ の取扱)など、『身近に感じて、手足のように使えるミシン』のコンセプト が受け継がれている。 <完> ======================================================================== ミ シ ン の 『 そうだったのか! 』 〜 ミシンの嘘・ホント、それって常識?! 【発行者】島田ミシン商会 嶋田栄司 【WEBサイト】島田ミシン商会 http://www.shimada-mishin.com/ ご意見、ご感想はコチラまで→ mag@shimada-mishin.com ◎このメールマガジンの転送は自由です。 ただし、掲載された記事の内容を許可なく転用・転載することを禁じます。 Copyright(C)2003 島田ミシン商会 All rights reserved. ▼このメールマガジンは以下の配信システムを利用しています。 『まぐまぐ』ID:0000115447 http://www.mag2.com/ ▼登録の解除は下記URLにて、ご自身でお願いします。 http://www.mag2.com/m/0000115447.htm ▼いたずらで登録されたと思われる方は、『まぐまぐ』にご相談ください。 『まぐまぐ』 http://www.mag2.com/ ======================================================================== 編┃集┃後┃記┃ ━┛━┛━┛━┛ 2回に渡ってお送りしました今回の内容はいかがだったでしょうか? ただ値段が高いだけのように思われているミシンですが、 メーカーさんもちゃんと努力していることを知っていただけたら、 と思います。 正直、私も「がんばってたんやなぁ」と思ったほどでした。 「ウチもがんばってるゾ!」というミシンメーカーの読者さんがいらっしゃ いましたら、ぜひお知らせください。 おもしろそうな内容でしたら、紹介させていただきたいと思ってます。 できれば家庭向けのミシン総合して、公平に扱う純粋に読み物としての メールマガジンにしていきたいので、よろしくお願いします。 さて、現在販売されている全ての家庭用ミシンの自動糸調子機構が、このよ うに凝った仕組みになっているのかというと、そうでもないんですよね。 次回はその辺りのことを紐解いてみたいと思ってます。 最後までお読みいただき、ありがとうございました。 次回は12月16日の発行予定です。ではでは。 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
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